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最高裁判所第二小法廷 昭和26年(あ)4626号 判決 1953年5月29日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人大竹武七郎の上告趣意(一)について。

論旨は、本件において、主たる詐欺の訴因と、予備的に追加させられた横領の訴因と、原判決が認定した遺失物横領の事実とは、犯罪の日時、場所及び方法を異にし、その間公訴事実の同一性を認め得ないから、引用の判例に違反し、且つ審判の請求を受けない事件について判決をした違法があると主張する。しかるところ、右詐欺の基本事実は被告人が大垣信用組合において岩田吉次に支払うべき預金払戻金三万五千円を不法に領得したとの事実であり、これと原審が認定した占有離脱物横領の事実とは、犯罪の日時、場所において近接し、しかも同一財物、同一被害者に対するいずれも領得罪であって、その基本事実関係において異なるところがない。それ故、第一審が訴因の変更手続を経て横領と認定し、原審がこれを占有離脱物横領と認定しても公訴事実の同一性に欠くるところはない。論旨引用の当裁判所判例及び札幌高等裁判所判例はいずれも公訴事実の同一性は基本的事実関係が同一であるか否かによって決すべきものというにあり、その趣旨において右と相反する判断を示したものではない。次に原判決は第一審判決を破棄して自ら判決をなすに当り、訴因、罰条の変更手続を経ることなく一審の横領の認定を変じて占有離脱物横領としたことは所論のとおりであるが、本件被害金員を被告人が占有する関係を前者は委託に基づくものと観るに対し、後者はこれを占有離脱物の占有と観るに外ならず、すなわち、同一事実に対する法律的評価を異にするに過ぎないもので固より両者訴因を異にするものというを得ない。かくして問題は罰条の記載の点であるが、一審における各罰条の記載と原審の適用した罰条とが違っていることが被告人の防御に実質的な不利益を生ずる虞があるか否かについて考えると、原審において弁護人は第一審判決がした横領の事実認定を非難し自ら占有離脱物横領と認定すべき旨主張していること並びに横領罪と占有離脱物横領罪との刑の軽重等を考慮すれば、右罰条の記載の誤りは被告人の防御に実質的な不利益を生ずる虞があったものとは認められない(昭和二六年(あ)第七八号、同年六月一五日第二小法廷判決参照)。以上の理由により原審の判例違反並びに訴訟法違反を主張する論旨は採用できない。

同上告趣意(二)及び被告人の上告趣意について。

原判決が認定した占有離脱物横領の事実は挙示の証拠によって優にこれを認めることができ、原審の右認定には所論の如き事実誤認、経験則違背の違法は存しない。それ故論旨はいずれも理由がない。

その他記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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